副業、兼業時の確認すべき4つのルール
※2020年9月1日に改定された「副業・兼業促進に関するガイドライン」の内容を加筆しております。
以前は副業兼業を認めないという企業が多かったのですが、
厚労省より「働き方改革実行計画」を踏まえて、副業・兼業の普及促進を図っており、その流れが変わってきました。
副業・兼業の促進に関するガイドラインを公表し、モデル就業規則でも副業・兼業の規定例を入れた条文が「禁止規定」から「容認規定」に変更されています。
また2020年9月1日より、副業兼業時の労災保険給付についての法改正があります。
そこで今回は企業が副業・兼業を認める場合の労務管理のポイントについて確認したいと思います。
この記事でお伝えすること
●副業・兼業のルール
●副業兼業の労働時間のカウント方法
●副業兼業したときの残業代
●副業兼業時の労働時間上限規制
●副業兼業の労災保険(2020年9月1日法改正内容も含む)
副業・兼業のルール
自社で副業・兼業を認めるとした場合は、就業規則にそのルールを明確にしておくことをおススメします。
具体的には「禁止」とするのではなく「許可制」とし、最低でも次のようなルールは決めておくと良いでしょう。
・副業、兼業の申請方法
・副業、兼業できる業務
・許可をしない事由
許可しない事由は、例えば・・・
・所定労働時間に行われる場合
・本業の労務提供に支障を来す場合
・競業により会社の利益を害する場合
・企業秘密の漏えいのおそれがある場合
・長時間労働により健康を害するおそれがある場合
などを入れておくと良いでしょう。
副業・兼業の労働時間カウント方法
労働基準法では、1日8時間、週40時間を超える労働は禁止されております。
この時間は法律で決められている労働時間なので、法定労働時間と言います。
ちなみに法定労働時間を超えて働いてもらうには、36協定を届け出たり、就業規則に残業や休日労働を命じる規定などが必要です。
また法定労働時間を超えて働いた場合は、2割5分増し以上の割増賃金の支払が必要です。いわゆる残業代ですね。
それでは、
本業の他に副業・兼業先で雇われた場合、労働時間の扱いはどうなるのでしょうか?
通常であれば、本業の仕事が終わった後の時間や、本業の仕事がお休みの日に副業・兼業されることになるかと思います。
この場合、労働時間は本業と副業・兼業先それぞれでカウントすれば良いと思われがちですが、
実は会社が異なる場合でも、「労働時間は通算する」と決められています。
※ただし、副業や兼業を労働基準法が適用されないフリーランスや経営者、顧問、理事、監事という立場や
労働基準法の労働時間制度が適用されない農業、水産業に従事する者、管理監督者・機密事務取扱者、高度プロフェッショナル制度対象者などの立場である場合、労働時間は通算されません。
例えば本業であるA社で8時間働いた後に、副業先のB社で2時間働いたとすると、労働時間は通算されるため、その日は10時間労働となります。
副業・兼業したときの残業代
ここで疑問となるのが、
割増賃金の支払はどちらの会社が行うのかということです。
※以下、割増賃金はわかりやすいように残業代と明記しています。
原則は、通算した労働時間のうち「法定労働時間を超えた時点で働いている会社」が残業代支払いの義務を負うこととなります。
例えば本業(A社)で8時間、副業先(B社)で2時間働いた場合、
本業(A社)は法定労働時間内で収まっており、副業先(B社)での労働2時間分が8時間を超えた法定労働時間外、つまり残業ということになります。
副業先からしてみれば、「2時間しか働かせていないのに!」と思うかもしれませんが、このケースだとB社に残業代の支払が義務付けられます。
というのも、一般的には副業先は、すでに本業の会社で働いていることを確認した上で、後から雇用契約を結ぶと想定されています。
したがって副業先での労働時間が時間外労働になることも理解した上で、雇用契約をしていると解釈されるのでしょう。
しかし、副業先がすべて残業代を支払うかというと、そのようなケースばかりではありません。
次は、具体例を交えて、どちらが残業代を支払うのか確認していきましょう。
<副業兼業したときの残業代の考え方>
これから事例を4つ挙げます。
本業、副業兼業先、どちらの会社に残業代の支払義務があるのかを確認していきましょう。
(事例1)同じ日に本業と副業先で仕事するケース
本業であるA社と「所定労働時間8時間」の雇用契約をしている従業員が、副業先B社と「所定労働時間5時間」の雇用契約し、同じ日にそれぞれの所定労働時間働いた場合
※A社、B社ともに双方の労働時間を把握しているものとします。
(A社)
A社での所定労働時間は8時間であり、1日8時間を超えていないためA社には残業代の支払義務はありません。
(B社)
A社では、すでに法定労働時間である8時間働いているため、B社での労働時間(5時間)はすべて残業扱いとなり、残業代(割増賃金)の支払が必要となります。
仮にB社が時給1,000円で契約していたとしても、2割5分増しの賃金で、1時間あたり1,250円を支払うことになります。
(事例2)本業の休日の日に副業先で仕事するケース
本業であるA社と「月曜日から金曜日、所定労働時間8時間」の雇用契約をしている従業員が、副業先B社と「土曜日に所定労働時間5時間」の雇用契約をし、それぞれの雇用契約通りに働いた場合
※A社、B社ともに双方の雇用契約内容を把握しているものとします。
(A社)
A社での所定労働時間は8時間、月曜日から金曜日まで働いた場合、週の労働時間は40時間となり、法定労働時間内(週40時間以内)の労働なので、A社には残業代の支払義務はありません。
(B社)
日曜日または月曜日を起算とした場合、A社ではすでに法定労働時間である週40時間働いているため、B社での土曜日の労働(5時間)はすべて残業扱いとなり、割増賃金(残業代)の支払が必要となります。
(事例3)A社に残業代支払の義務があるケース
本業であるA社と「所定労働時間4時間」の雇用契約をしている従業員が、副業先B社と「A社と同じ曜日に所定労働時間4時間」の雇用契約し、その日A社では5時間労働して、B社では4時間労働した場合
※A社、B社ともに双方の雇用契約内容を把握しているものとします。
今まで少し異なるケースです。
A社、B社の双方の所定労働時間を通算しても、法定労働時間内に収まりますが、本業で残業が生じたケースです。
この場合は、A社が1時間分の残業代を支払う義務があります。
A社、B社ですでに法定労働時間の8時間に達しているので、どちらかの会社で残業をした場合は、それぞれの会社で残業代を支払う義務があります。
今回のケースでは、A社に支払義務があります。
原則からすると、通算した労働時間のうち「法定労働時間を超えた時点で働いている会社」で支払義務があるため、B社が1時間分の残業代を支払うと思われがちです。
しかしA社は、「副業先B社での労働時間と通算してすでに8時間労働する」と把握しています。
よって、法定労働時間を超えた原因であるA社に、残業代の支払が義務付けられるのです。
(事例4)A社、B社それぞれで所定労働時間超えて働いたケース
本業であるA社と「所定労働時間3時間」の雇用契約をしている従業員が、副業先B社と「A社と同じ曜日に所定労働時間3時間」の雇用契約し、その日A社では5時間労働して、B社では4時間労働した場合
※A社、B社ともに双方の雇用契約内容を把握しているものとします。
こちらもA社、B社の双方の所定労働時間を通算しても、法定労働時間内に収まりますが、本業、副業先それぞれで残業が生じたケースです。
A社、B社で雇用契約通りに労働した場合、1日の労働時間は6時間となり、法定労働時間内に収まります。
(A社)
A社で5時間労働したので、雇用契約よりも2時間多く働いていますが、A社で労働が終了した時点では、B社での所定労働時間を含めても8時間となるため、法定労働時間内に収まります。したがって、A社では残業代支払いの義務はありません。
(B社)
そのあと、B社で1時間多く働いたため、通算9時間となりました。
この場合は、「法定労働時間を超えた時点で働いている会社」はB社となるため、B社で1時間分の残業代を支払うこととなります。
「A社で2時間多く働かなければ、B社の1時間は残業にならなかったのに・・・」と思われるかもしれませんが、このケースだとB社に支払義務が出てくるんですね。
以上4つの事例を見ながら確認してきましたが、
いずれも、本業、副業先ともに、それぞれの労働条件は把握していなければなりません。
そのためにも、本業の会社は、副業の届出が必須ですね。
そして労働時間の通算は、本業の労働時間と、労働者からの申告等により把握した副業先の労働時間を通算することによって行います。
したがって、副業先の労働時間を申告してもらうルールもあらかじめ決めておきましょう。
また副業先の会社は、本業先の労働条件を必ず確認するようにしましょう。
「知らない間に、未払残業代が発生していた!」ということにならないよう、ご注意ください。
(参考条文)
労働基準法第38条
労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。
副業兼業時の労働時間上限規制
36協定については、本業、副業先ぞれぞれの会社で延長時間を定めることになります。
この36協定においては、それぞれの会社で定めていることから、36協定に定めた延長時間の範囲内か否かについては、本業の労働時間と副業の労働時間は通算されません。
例えば、本業の会社の月の延長限度時間を45時間、副業先の月の延長限度時間を45時間とした場合、各々の会社でカウントした残業時間が45時間を超えていなければOKです。
一方で、法定労働時間、上限規制(単月100時間未満、複数月平均80時間以内)については、その労働時間は通算されます。
つまり、それぞれの会社は通算して時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満、複数月平均80時間以内の要件を遵守するよう1ヶ月単位で労働時間を通算管理する必要があります。
<簡便な労働時間の管理方法>
このように、副業兼業時の労働時間管理は会社、労働者ともに手続き上の負担が大きいです。
そこで、厚生労働省では、その負担を軽減し、労働基準法が遵守されやすくなる簡便な労働時間管理の方法(「管理モデル」)を進めています。
「管理モデル」
・「管理モデル」では、副業・兼業の開始前に、 A 社(先契約)の法定外労働時間と B 社(後契約)の労働時間について 、上限規制(単月 100 時間未満、複数月平均 80 時間以内)の範囲内でそれぞれ上限を設定し、それぞれについて割増賃金を支払うこととする 。
これにより、副業・兼業の開始後は、他社の実労働時間を把握しなくても労働基準法を遵守することが可能となる。
・「管理モデル」は、副業・兼業を行おうとする労働者に対してA 社(先契約)が管理モデルによることを求め、労働者及び労働者を通じて使用者 B (後契約)が応じることによって導入される。
管理の負担が大きいと感じたら、
管理モデルを導入も検討してみてはいかがでしょう。
副業兼業したときの労災保険
副業、兼業時の労災保険の取り扱いについては、2020年9月1日より変わります。
現行の制度と法改正の内容について確認していきましょう。
Q、本業と副業、兼業先のどちらの労災保険を使うのか?
A、これは、労働災害が発生した就業先の労災保険を使用することになります。
Q、副業、兼業している場合、労災保険給付額の算定はどうなるのか?
A、こちらの内容は、2020年9月1日より改正となります。
・現行の制度:労働災害が発生した就業先の賃金分のみに基づき給付額が決定。
・改正後:本業、副業先すべての勤務先の賃金額を合算した額を基礎に給付額が決定。
一般的には副業先での賃金は本業に比べて低額かと思います。
仮に副業先で労働災害に遭い、本業でも一定期間働くこともできなくなった場合でも、副業先の賃金で給付額が決定されてしまうため、休業補償給付が低額となってしまう問題がありました。
この問題に対応したのが、今回の法改正内容となります。
Q、副業、兼業している場合の、業務の過重性の評価にあたって労働時間は合算されるのか?
A、こちらの内容も、2020年9月1日より改正となります。
・現行の制度:本業、副業兼業先ごとの業務に着目し、その業務が原因で労働災害が発生した場合に、保険給付を行うこととしていることから、副業、兼業している場合であっても、それぞれの就業先の労働時間は合算せず、個々の会社ごとに業務の過重性を評価する。
・改正後:それぞれの就業先ごとに負荷(労働時間やストレス等)を個別に評価して労災認定できない場合は、すべての就業先の負荷(労働時間やストレス等)を総合的に評価して労災認定できるかどうかを判断
※対象疾病は脳・心臓疾患や精神障害となります。
残業代の計算をする際は、個々の会社の労働時間は合算されるのに、労災保険の給付となると、合算されないというおかしな現象が起きていましたが、この問題にも対応されるようになりました。
Q、本業であるA社での勤務終了後、副業先のB社に向かう途中に災害に遭った場合、通勤災害に該当するか?
A、通勤災害になります。このケースだと、B社の労災保険を使用して保険給付を受けることができます。
「A社の帰り」ではなく、「B社への出社」という扱いになるということですね。
いかがでしたでしょうか
今回は、「副業、兼業」についての様々なルールについて確認してきました。
今後「働き方改革」が一層進み、「ひとつの会社で働くこと」から「複数の会社で働く」という働き方が増えてくるかと思います。
そのようなことを想定して、今からルールの確認をしておくと良いでしょう。