賃金請求権時効延長、残業代トラブルを防ぐ2つの基礎知識

2020/07/29 ブログ

2020年4月1日より、賃金の請求権の消滅時効期間を2年から5年(当面3年)に延長することとなりました。

つまり、企側から見れば未払い賃金、未払残業代の請求も2年から3年まで遡って請求されるようになります。

 

仮に月給25万円の社員に残業代を支払っていない場合はどれくらいの金額になるでしょう。

 

※1日1時間残業 稼働日数20日とした場合

250,000円 月給   ÷  160h 労働時間   ≒1,563円 時給
1,563円 時給     ×  1.25 残業割増  ≒1,954円 残業代/時 
1,954円 残業代/時  ×  20日 労働日数    =39,080円 残業代/月
39,080円  残業代/月  ×    36か月 月数        =1,406,880円 業代/3年

 

 

たった1時間の残業でも、3年間だと140万円もの未払残業代となります。

 

 

実際に訴えられた場合には、

付加金最大140万円で未払残業代と合わせて280万円

このほかにも遅延損害金(在職時年率6%、退職後14.6%)がかかります。

 

月給25万円(残業1時間)の社員の未払残業代でも、

このように300万円近くの訴えが可能です。

 

 

未払残業代が起きてしまう原因として、

「だれが何時間働いているのかをきちんと記録していない」

「労働時間、休憩時間、休日の解釈が間違っている」

「残業代の計算方法が間違っている」

等が多いです。

 

つまり「知らないか」「やっていないか」です。

 

賃金請求権の時効が延長したことにより、ますます「労働時間管理」と「正しい残業代の計算」が求められます。

 

そこで今回は、知らない間に未払残業代が発生しないよう、「労働時間の基本知識」と「正しい残業代の計算方法」について確認していきたいと思います。

 


 

 

この記事でお伝えすること

 

・労働時間のルール

・残業、休日労働のルール

・残業代単価算出のルール

・残業時間のカウントルール

 

 


 

 

労働時間のルール

 

正しい残業代の計算をする上で欠かせないのが、正しい労働時間のルールを理解することです。

 

 

<労働時間の原則>

 

労働時間の原則は

1週40時間、1日8時間を超える労働が禁止されています。(労働基準法第32条)

この週40時間、1日8時間までの労働時間を法定労働時間と言います。

 

とはいえ、多くの企業がこの時間を超えて働いてもらっています。

なぜ、法定労働時間を超えて働かせることができるのかというと、次の2つの条件を満たしているからです。

 

①36協定の届出

②就業規則に時間外労働(残業)を命じる規定を設ける

 

もともと、残業や休日労働は禁止されているので、このような手続きが必要となります。

 

 

<休憩時間、休日の原則>

 

労働時間が6時間を超える場合は、少なくとも45分

労働時間が8時間を超える場合は、少なくとも60分

 

の休憩時間が必要です。

 

また

毎週少なくとも1回の休日が必要です。

例外的に4週間に4日以上の休日も認められます。(就業規則に定める必要があります。)

 


 

 

残業、休日労働のルール

 

<時間外労働、休日労働>

 

労働基準法により、法定労働時間を超えて働くこと、休日に働くことは禁止されておりますが、先に説明したとおり、36協定等の手続きを踏めば可能となります。

 

とはいえ、もともと禁止されているものなので、会社側にも一定のペナルティがあります。

これが「割増賃金」の支払です。

 

時間外労働、休日労働させても良いけど、「通常の賃金よりも多く支払ってもらいますよ」ということなんでしょうね。

 

 

割増賃金率は下表のとおりです。

 

時間外・休日・深夜労働 割増率
時間外労働 1カ月合計60時間まで 2割5分以上
  1カ月合計60時間超え 5割以上
休日労働   3割5分以上
深夜労働 22時~5時 2割5分以上

 

このように労働時間や休日の原則から外れるので、割増賃金の支払が必要なんですね。

 


 

労働時間、残業・休日労働のまとめ

 

・法定労働時間は1日8時間、週40時間まで。

・法定休日は週に1回または例外として4週4日もOK

・法定労働時間を超えて働かせるには36協定等の手続きが必要

・手続きをしても、時間外労働や休日労働には割増賃金の支払が必要

 


 

残業代単価算出のルール

 

 

<よくある残業代単価算出の間違い>

 

さて、時間外労働(残業)をしたときに割増した賃金を支払うことは理解したかと思います。いわゆる残業代ですね。

 

残業代は

時間単価×割増率×時間外労働時間(残業時間)

となります。

 

時給者あれば、時給額に割増率を掛ければ残業単価を算出できますが、正社員の多くが月給者です。

 

月給者の残業代を計算するには、月給者の「残業代の基礎となる時間単価」(以下残業代単価とします。)を算出するところから始めなければなりません。

 

計算式は

「月給額÷月の労働時間×割増率」(残業代単価)

となります。

 

 

この「月給者の残業代単価算出」を間違えてしまい、残業代を支払っているにも関わらず、未払残業代が発生してしまっているケースがあります。

 

よくある残業代単価算出の間違いは、

・月の労働時間をおよそで計算している

・基本給のみで残業代単価を算出している(諸手当を含めてない)

・残業代単価計算から除外する手当を理解していない

・除外する手当であっても計算に含めるケースを理解していない

等です。

 

それでは、正しい残業代単価の算出方法を確認していきましょう。

 

<よくある間違い① 月の労働時間をおよそで計算している>

 

以前、私が関わった企業の社長さんに、残業代単価の算出方法を尋ねたところ、

「うちは月に25日働いてもらって、1日8時間労働だから月の労働時間を200時間で割って計算してるよ」

と仰ってしました。

 

この計算方法だと、月の法定労働時間を超えてしまっているので、残業代単価が低く計算されてしまっていました。

法定労働時間を理解していないことが原因ですね。

 

月給者の残業代単価を算出する際の「月の労働時間」は、「月の平均所定労働時間」で計算することと決まっています。

したがって、まずは正確な月の平均所定労働時間を算出する必要があります。

 

例えば、会社の年間休日日数が105日、1日の所定労働時間が8時間とした場合

365日(年間歴日数)-105日(年間休日日数)=260日(年間労働日数)
260日(年間労働日数)×8時間(1日の所定労働時間)=2,080時間(年間労働時間)
2,080時間(年間労働時間)÷12(年間月数)=173.33(月の平均所定労働時間)

 

この場合の月の平均所定労働時間は173.33時間ということになります。

 

ここで注意しなければならないのが、先の会社のように月に25日、1日8時間労働としている場合です。

週に1日の休日なのですが、1日8時間労働だと週48時間勤務となり、法定労働時間を超えております。このような場合は、 週休2日として計算しなければなりません。

 

例えば基本給22万円、役職手当3万円の方の残業代単価は下記のようになります。

(220,000円+30,000円)÷173.33=1442.33円×1.25=1,803円

 

この方の1時間あたりの残業代は1,803円です。

 

 

<よくある間違い② 基本給のみで残業代単価を算出している>

 

残業代単価を算出する際、基本給のみで算出してしまっているケースも見受けられます。

 

先程の計算例で言えば、

220,000円÷173.33=1269.25円×1.25=1,587円となり、

基本給だけで算出している場合、残業代単価が低くなります。

つまり、こちらも知らない間に未払残業代が発生してしまうケースです。

諸手当も含めて、算出しなければなりません。

 

 

<よくある間違い③ 残業代単価計算から除外する手当を理解していない>

 

諸手当から除外できる手当があります。

 

家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われる賃金、1か月を超えて支払われる賃金

の7つです。

この7つ限定です。

逆を言えば、この手当以外の手当はすべて含めなければなりません。

 

手当の名称が異なっていても、その内容が同じであれば除外できます。

例えば、名称が扶養手当であっても、扶養家族の人数に応じて支給する家族手当と同じ内容であれば除外できます。

 

逆に手当の名称が同じでも、その内容、性質が異なれば除外することはできません。

例えば、名称は家族手当であっても、家族の有無に関わらず全員に支給しているのであれば、除外することはできません。

 

また皆勤手当や業績に応じて支給する歩合手当や業績手当など変動する手当は含めないと考えがちです。

しかし、除外できる手当は上記の7つのみです。

変動する手当も含めて、残業代単価を算出する必要があります。

つまり変動する手当がある場合は、毎月残業代単価も変動するということです。

 

 

<よくある間違い④ 除外する手当であっても計算に含めるケースを理解していない>

 

除外できる手当であっても、金額を一律に支給している場合は、除外することができません。

例えば、全員に一律1万円で支給している通勤手当などがこれに該当します。

 

このように残業代単価の算出だけでも、いくつかの細かいルールがあります。

これをすべて理解していないと正しい残業代は計算できません。

 


 

残業代単価算出のまとめ

 

月給者の残業代単価を算出するときは

・月の平均所定労働時間を使う

・基本給だけでなく諸手当も含める

・7つの手当は除外できる

・でも、一律で支給する場合は含めなければならない

 

以上4つのポイントに注意しましょう。

 


 

 

残業時間のカウントルール

 

残業時間のカウントにもルールがあります。

このルールを理解していないと、残業時間を少なく計算してしまい、未払残業代になりかねません。

 

事例を使って確認していきましょう。

 

(事例1)

所定労働時間8時間

 

Aさんは、火曜日に1時間、木曜日に2時間残業をし、水曜日に2時間、

金曜日に1時間早退しました。さらに土曜日に2時間出勤しました。

Aさんの残業時間は何時間になるでしょうか?

 

<B社長の考え>

火曜日の残業1時間と木曜日の残業2時間で3時間。

さらに週の労働時間が42時間なので、週の法定労働時間40時間を引いた2時間をプラスして5時間が残業時間である

 

<C社長の考え>

火曜日の残業1時間と木曜日の残業2時間で3時間。

次に週の労働時間が42時間なので2時間の残業だが、すでに日々の残業時間として3時間が確定しているので、その3時間をカウントするとダブルカウントとなるため、週の残業は発生しない。したがって3時間が残業時間である

 

<D社長の考え>

実労働時間は42時間なので、法定労働時間の40時間を引いた

2時間が残業時間である

 

 

答えはC社長の考え、3時間となります。

しかし、D社長の考えで残業時間を計算している企業も少なくありません。

 

<解説>

残業時間のカウントは「日」→「週」の順番

 

まず日の残業時間をカウント

次に週の残業時間をカウント

日でカウントした時間は重ねてカウントしない

 

よくあるのが、

2時間残業した代わりに翌日2時間早く退勤してもらい相殺してしまうケースです。

 

 

<日の残業時間のルール>

日々の残業時間を相殺することはできません。

 

(事例2)週休二日制(土日休み)所定労働時間 8時間

 

週の労働時間では超えていなくても、日の残業時間をした事実は消えません。

つまり、残業時間はまず1日について判断。そこで残業時間と確定したものは、週の労働時間が超えていなくても残業時間となります。

 

賃金でみてみるとわかりやすいと思います。 

時給1,000円とした場合、

月曜日残業時間 1,000円×1.25×2時間=2,500円

火・水控除時間 1,000円×2時間=2,000円

 

2,500円ー2,000円=500円

 

この場合、500円の未払い賃金が発生してしまいます。

 

 

<週の残業時間のルール>

同じように週の残業時間も相殺することができません。

 

(事例3)週休2日制(土日休み)所定労働時間8時間 法定休日は日曜日

 

 

Aさんは、土曜日出勤した代わりに、翌週の月曜日代休をとってもらい

相殺したので、残業代の支払いはしなかった。

 

週の残業時間も「週単位」でカウントするため、翌週に勤務時間を短縮したり、代休を与えていたりしても相殺できません。

 

振替休日にしたとしても同一週内の変更でなければ、残業時間が発生することになります。(8時間労働の場合)

 

こちらも賃金でみてみましょう

時給1,000円

土曜日残業時間 1,000円×1.25×8時間=10,000円

月曜日控除時間 1,000円×8時間=8,000円

 

10,000円ー8,000円=2,000円

 

2,000円の未払い賃金が発生してしまいます。

 

 

<日と週の残業時間のルール>

『日の残業時間』と『週の残業時間』はダブルカウントしない。

 

 

 

金曜日の残業時間は日の残業で1時間、週の残業時間でも1時間で発生していますが、日の残業時間で1時間確定しているので、

週の残業時間ではカウントせずに、残業時間はトータルで1時間となります。

 


 

残業時間のカウント まとめ

 

・残業時間のカウントは「日」→「週」の順番を守る

・「日の残業時間」も「週の残業時間」も相殺できない

・「日でカウントした残業時間」と「週でカウントした残業時間」は重ねてカウントしない

 


 

いかがでしたでしょうか

 

今回は、正しい残業代を支払うために必要な2つの基礎知識について解説しました。

 

・残業代単価算出のルール

・残業時間のカウントルール

 

未払残業代を請求されることのないよう、この2つのルールは知識として身に付けておきましょう。