【就業規則に必ず記載する内容】賃金について
就業規則に必ず記載する内容として、前回は「労働時間、休憩、休日、休暇」について確認してみました。
前回の記事はこちら
今回は、「賃金」について確認していきたいと思います。
この記事でお伝えすること
・賃金の決定方法と最低賃金
・賃金の計算方法
・遅刻早退欠勤時の計算と割増賃金の計算方法
・賃金支払いのルール
就業規則では賃金について記載する内容は、
「賃金の決定」「計算及び支払の方法」「賃金の締切り及び支払の時期」「昇給」に関する事項となります。
これらの内容を決める上で抑えておくべき労働法のルールを確認しておきましょう。
賃金の決定方法と最低賃金
賃金の決定方法は会社により自由に決めることができますが、最低賃金を上回る必要があります。
最低賃金の確認方法は、下記のとおりです。
(1) 時間給制の場合
時間給≧最低賃金額(時間額)
(2) 日給制の場合
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
ただし、日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合には、
日給≧最低賃金額(日額)
(3) 月給制の場合
月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
(4) 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合
出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、その賃金計算期間に出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で割って時間当たりの金額に換算し、最低賃金額(時間額)と比較します。
(5) 上記(1)、(2)、(3)、(4)の組み合わせの場合
例えば、基本給が日給制で、各手当(職務手当など)が月給制などの場合は、それぞれ上記(2)、(3)の式により時間額に換算し、それを合計したものと最低賃金額(時間額)を比較します。
また最低賃金算定にあたり下記手当は除外して計算します。
(1) 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
(2) 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
(3) 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(残業代など)
(4) 休日割増賃金
(5) 深夜割増賃金
(6) 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
では、月給制の換算方法について具体的な事例を見ながら確認してみましょう。
神奈川県で働く労働者Aさんは月給制です。
基本給が月140,000円
職務手当が月30,000円
通勤手当が月5,000円
また、この他に残業や休日出勤があれば時間外手当、休日手当が支給されます。
その月は、時間外手当が40,000円支給され、
合計が215,000円となりました。
Aさんの会社は、
年間所定労働日数は245日、
1日の所定労働時間は8時間です。
2021年の神奈川県の最低賃金は時間額1,012円です。
(1)Aさんに支給された賃金から、最低賃金の対象とならない賃金を除きます。
除外される賃金は通勤手当、時間外手当です。
215,000円-(5,000円+40,000円)=170,000円
(2)この金額を時間額に換算し、最低賃金額と比較すると、
170,000÷(245日×8時間÷12か月)=1,040円>1,012円
となり、最低賃金額以上となります。
最低賃金割れしていないか?
除外しなければならない手当も含めて計算していないか?
今一度ご確認ください。
賃金の計算方法
賃金の計算方法は主に、月給制の場合の遅刻早退欠勤時の取扱いや、割増賃金の計算方法となります。
遅刻早退欠勤時の計算方法については、
法令上特に定めはありません。
基本給や諸手当を歴日数で割ってもその月の所定労働日数で割っても月の平均所定労働日数で割っても構いません。
歴日数やその月の所定労働日数で割るとわかりやすいですが、毎月単価が変動するので公平性に欠けるという考え方もあるでしょう。
一方、月の平均所定労働日数で割ると、毎月の単価は変動しないので、こちらを採用するケースが多いように感じます。
では少し事例を挙げながら確認してみましょう。
〇遅刻欠勤した分を控除するのか?出勤した分を支給するのか?
例えば、
基本給が月210,000円
その月の所定労働日数20日
平均所定労働日数は21日とします。
15日欠勤した場合
210,000÷21日=10,000円(単価)
控除する方法であれば、
210,000円-15日×10,000円=60,000円となります。
しかし、もし全部欠勤した場合はどうでしょう
210,000円-20日×10,000円=10,000円となります。
1日も出勤していないのに、10,000円の給与が出ることになります。
このようなことにならないよう
例えば、
・月の半分以上欠勤した場合は、出勤した日数分を支給する
・全部欠勤した場合、給与は支給しない
などのルールにしておく必要があるでしょう。
また遅刻、欠勤した際の諸手当も控除するのか?
諸手当も含めて日割(時間)計算するのか?
欠勤日数により判断するのか?
給与計算の際に迷うことのないよう、このあたりも曖昧にせず明確にしておきましょう。
〇割増賃金の計算方法
割増賃金については、
労働基準法は、施行規則第19条で割増賃金の基礎となる賃金の計算方法が決められております。
月給制の場合は、月の平均所定労働時間で割ることとされております。
月の平均所定労働時間は下記のように算出します。
例えば、会社の年間休日日数が105日、1日の所定労働時間が8時間とした場合
365日(年間歴日数)-105日(年間休日日数)=260日(年間労働日数) |
260日(年間労働日数)×8時間(1日の所定労働時間)=2,080時間(年間労働時間) |
2,080時間(年間労働時間)÷12(年間月数)=173.33(月の平均所定労働時間) |
この場合の月の平均所定労働時間は173.33時間ということになります。
詳しい割増賃金の計算方法はこちらの記事で詳しく書いております。
賃金支払いのルール
賃金の支払方法は労働基準法において定められております。
賃金支払いの5原則というものがありますので、支払いのルールを決める際は、この5原則を守ってルールを決める必要があります。
〇通貨払いの原則
賃金は通貨で支払わなければなりません。
現金払いということですね。もちろん日本円で支払わなければなりません。
例外として、労働協約で別段の定めがある場合は現物支給することができます。
例えば通期定期券などですね。
労働協約とは会社と労働組合の間で、組合員の労働条件や労働組合と会社との関係に関する事項について団体交渉を行い、その結果、労使間で合意に達した事項を書面にし、労使双方が署名又は記名押印したものをいいます。
つまり労働組合のない会社は労働協約が締結できないので、現物支給はできません。
ちなみに36協定のように労働者代表と会社で締結するものは労使協定で、ここでいう労働協約とは別物です。労使協定を締結しても、現物支給はできませんのでご注意ください。
〇直接払いの原則
賃金は直接労働者に支払わなければなりません。
賃金の受け取りに関し、委任、代理等の行為は無効です。
ただし例外として労働者の家族に支払うことは差し支えないとされています。
〇全額払いの原則
賃金はその全額を支払わなければなりません。
例外として、次の場合には賃金の一部を控除して支払うことができます。
①法令に定めがある場合
例えば、所得税の源泉徴収や社会保険料の控除などがこれに該当します。
②労使協定がある場合
法令で定められたもの以外でも労使協定を締結すれば賃金から控除することが可能です。
例えば、社宅費、食費、社内預金、組合費など
〇毎月1回以上払いの原則
賃金は毎月1回以上支払わなければなりません。
2か月に1回、3か月に1回支払うということはできません。
ただし退職手当のような臨時で支払われる賃金や賞与などは除外されます。
例えば月末払いの会社で、「支払日が金融機関の休業日の場合は翌日に支払う」といったルールにしていると、翌月の支払になってしまうので毎月1回以上払いの原則から外れてしまいます。
月末払いで金融機関の休業日にあたる場合は、前日払いとしておきましょう。
〇一定期日払いの原則
賃金は毎月一定期日に支払わなければなりません。
今月は10日、来月は20日に支払うといったことは認められません。
したがって、賃金の支払日を会社で決めておく必要があります。
この5原則を遵守して、
賃金の締日・支払日を決定しましょう。
賃金は、絶対的必要記載事項となります。
したがって、
基本給のほかに諸手当を支給する場合は、就業規則に記載しておく必要があります。
諸手当の内容については、同一労働同一賃金を考慮してその支給目的を明確にしておくと良いでしょう。
今回は就業規則の絶対的必要記載事項である賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関して、抑えておくべき労働法のルールについて確認してみました。