【月60時間超の残業】割増賃金率5割

2022/11/02 コラム

今から12年前の2010年、

長時間労働を抑制するために、労働基準法が改正されました。

 

その改正内容の一つに

「月60時間を超える残業時間に対する割増賃金率の引き上げ」というものがありました。

 

1か月について60時間を超えて残業させた場合には、

その超えた残業時間について割増賃金率

現行の25%以上から50%以上の率に引き上げることになりました。

 

ただし、こちらの内容は大企業のみとされており、

中小企業においては当分の間、その適用を猶予するとされていました。

つまり60時間を超える残業をしても、現行の25%以上の支払でOKでした。

 

これが、2023年4月1日より中小企業においても適用されることとなりました。

そこで、今回は「月60時間を超える残業時間に対する割増賃金率の引き上げ」の内容について、

詳しく解説していきたいと思います。

 


 

この記事でお伝えすること

 

・現行制度の概要

・60時間超 割増賃金率50%の内容

・代替休暇の内容

・2023年4月までにやること

・よくあるご質問

 


 

現行制度の概要(中小企業)

 

時間外労働(残業)に対して、会社は25%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。

深夜(22:00~5:00)の時間帯に残業をした場合は、深夜割増賃金率25%+残業割増率25%=50%となります。

 

 

2023年4月からの内容

 

1か月60時間を超える残業に対しては、会社は50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。

 

 


 

60時間超 割増賃金率50%

 

1か月の起算日は、賃金計算期間の初日、毎月1日、36協定の期間の初日などが考えられますが、賃金計算期間に合わせたほうが労働時間の集計はしやすいでしょう。

 

1か月の起算日から残業時間数を累計していって60時間を超えた時点から50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならないものです。

 

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<深夜割増賃金との関係>

深夜(22:00~5:00)の時間帯に月60時間を超える残業をした場合は、深夜割増賃金率25%+残業割増賃金率50%=7割5分となります。

 

<法定休日との関係>

1か月60時間確認のため残業時間をカウントしていくわけですが、

そのカウントに法定休日におこなった労働時間は含めません。

 

ここで注意すべき点は、「カウントから除外できるのは、法定休日労働であって休日労働ではない」ということです。

 

法定休日とは労働基準法に定められている休日であり、

その内容は「1週間に1日」または「4週間に4回」の休日を与えなければならないとされています。

 

1週間に1日の休日ということであれば、

例えば、

土日休日の会社の場合、

土曜日に働いても、日曜日を休んでいれば、1週間に1日の休日は取れているので法定休日労働にあたりません。

土曜日の出勤は、会社の休日労働だとしても法定休日労働にはあたらないということです。

 

ただし就業規則で法定休日を特定している場合は、1週間に1日の休日をとっていたとしても法定休日労働にあたります。

例えば、

土日休日の会社で日曜日を法定休日としている場合、

土曜日にお休みをとっていたとしても日曜日に働けば、

その日曜日の労働時間は法定休日労働にあたります。

 

この法定休日に労働させた場合は、3割5分以上の割増賃金を支払わなければなりません。

 

繰り返しますが、60時間の残業時間をカウントするときには、

この法定休日労働時間は含めません。

 

 

具体的に次の例で確認してみましょう。

 

1か月の起算日は毎月1日。

休日は土曜日、日曜日。法定休日は日曜日(割増賃金率は3割5分)

残業時間(平日と土曜日)の割増賃金率は60時間までは25%

カレンダーの赤字を残業時間数とします。

 

 

割増賃金率は、日曜日を法定休日と定めているので、下記の通りとなります。

 

・残業時間(60時間まで) 1日.2日.4日.5日.8日.10日.12日.13日.16日.18日.22日.23日 = 25%

・残業時間(60時間超) 24日.30日=50%

・法定休日労働 7日.28日=3割5分

 

ちなみにフレックスタイム制の残業カウント方法はこちらで解説しています。

 


 

代替休暇

 

50%の割増賃金を支払う代わりに、有給の休暇を設けることもできます。

これを代替休暇制度といいます。年次有給休暇とは異なります。

 

代替休暇制度導入にあたっては、労使協定を結ぶことが必要です。

労使協定で定める事項は下記のとおりです。

 

①代替休暇の時間数の具体的な算定方法

②代替休暇の単位

③代替休暇を与えることができる期間

④代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日

 

の4つがあります。

 

労使協定の内容を詳しく確認していきましょう。

 

①代替休暇の時間数の具体的な算定方法

 

割増賃金を支払う代わりに休暇を与えるのですが、一体どれくらいの休暇を与えれば良いのかという疑問が出てきます。

代替休暇の時間数の算定方法も示されております。

 

(1か月の残業時間数-60時間)×換算率

 

換算率とは何かということなのですが、

代替休暇を取得しなかった場合に支払うこととされている割増賃金率。

つまり60時間を超えた時間数に支払う割増率なので50%以上。

これと、代替休暇を取得した場合に支払うこととされている割増賃金率。

通常の残業代に支払う割増率なので、25%以上。

 

代替休暇を取得しなかった場合に支払うこととされている割増賃金率から

代替休暇を取得した場合に支払うこととされている割増賃金率

引いた率が換算率となります。

 

この割増率の設定は会社により異なると思いますが、

多くが60時間超えを50%、通常の残業時間を25%に設定しているかと思います。

この割増率で計算すると、

50%-25%=25%

換算率は25%となります。

 

換算率を何%にするかなど、具体的な算定方法を労使協定で定めます。

例えば80時間残業して、代替休暇を利用する場合は、

(80-60)×0.25=5時間となります。

 

②代替休暇の単位

 

労働者に休息してもらうことが目的ですから、まとまった単位で与えなければなりません。

「1日」「半日」「1日または半日」のいずれかによって与えることとされています。

 

半日については、原則1日の所定労働時間の半分ということになりますが、

厳密に所定労働時間の2分の1とせず、例えば午前8時30分から12時までの3時間半(午前休)

13時から17時30分までの4時間半(午後休)とすることも可能です。

その場合は、労使協定でその旨を定めます。

 

<端数の時間はどうすればいいの?>

代替休暇の算定をしたときに端数として出てきた時間数はどうすれば良いのでしょう。

例えば、代替休暇が5時間と算出された場合、時間単位の有給休暇(3時間)と合わせて1日単位とする方法や、他の月の代替休暇分と合算して取得単位とする方法、

半日分(4時間)を休暇、1時間分を金銭として支払うなどの方法が考えられます。

 

厚労省のパンフレットに記載されている例も載せておきます。

 

(例)1日の所定労働時時間が8時間で、代替休暇の時間数が10時間ある場合

 

 

 

③代替休暇を与えることができる期間

 

代替休暇を与えることができる期間は、60時間を超えた残業を行った月の末日の翌日から2か月以内とされています。

例えば4月に残業60時間を超えて、代替休暇を利用する場合、期限は6月末までとなります。

期間が1か月を超える場合、1か月目の代替休暇と2か月目の代替休暇を合算して取得することもできます。

 

 

 

<代替休暇を2か月以内に取れなかったら?>

代替休暇を取得する予定ではあったが、2か月以内に取れなかったらどうなるのでしょう。

2か月以内に取得できなかったとしても割増賃金の支払義務はなくならないため、代替休暇を与える予定であった割増賃金分の支払が必要です。

詳細は④にて解説します。

 

 

④代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日

これまで解説してきた通り、代替休暇は少し複雑です。

したがって代替休暇を利用するときのルールを明確にしておかなければ、トラブルになります。

トラブル防止の観点から賃金の支払額を早めに確定させるルールにしておくことをおすすめします。

その内容を労使協定で定めておきましょう。

 

<取得日はいつ伝えればいいの?>

例えば、

「月末から5日以内に会社が従業員に代替休暇を取得するか否かを確認し、

取得の意向がある場合は取得日を決定する」

というように、

取得日の決定方法について協定しておきましょう。

 

ただし、取得するかどうかは法律上、労働者に委ねられています。

これを強制してはならないことはもちろん、代替休暇の取得日も労働者の意向を踏まえたものとしなければなりません。

つまり会社が代替休暇取得を決めることはできず、

あくまでも本人の意向によるものになりますので、

代替休暇を希望しなければ、50%以上の割増賃金の支払が必要です。

 

<割増賃金はいつ支払えばいいの?>

代替休暇を取得した場合には、その分の支払が不要となることから、いつ支払っておけばよいのかが問題になります。

労使協定ではどのように支払うかについても協定しておきましょう。

 

(例)賃金締日支払日 :当月末日締翌月20日払い。代替休暇は2か月以内に取得

代替休暇を取得しない場合の割増賃金率は50%

代替休暇を取得した場合の割増賃金率は25%

 

 

 


 

 

2023年4月までにやること

 

・就業規則(賃金規程)の変更

割増賃金率が変更となりますので、就業規則や賃金規程の変更が必要です。

 

就業規則の記載例

 

・労使協定の締結(代替休暇を利用する場合)

代替休暇を利用する場合は、労使協定を締結します。

 

労使協定の記載例

 

代替休暇を利用する場合は、

付与単位をどうするか?

取得日のルール、意向確認はいつまでに行うか?

割増賃金の支払日、代替休暇を取得しなかった場合の割増賃金の支払日

などを決めます。

 

このほか

 

・各従業員の労働時間の適正管理

・給与計算ソフトの設定変更

・長時間労働対策

 

などの対応が必要です。

 


 

最後によくある質問について

QA方式でまとめておきます。

 

よくあるご質問

 

Q1.代替休暇を与えることとして、割増賃金の一部を支払わないことは、賃金毎月払の原則、賃金全額払の原則に反するのではないですか。

 

A1.代替休暇を与えることとして通常の賃金支払日に割増賃金の一部を支払わないことは、法が予定する範囲内の行為ですので、賃金毎月払の原則や賃金全額払の原則に反するものではありません。

ただし、取得期間内に代替休暇を取得することができない場合には、取得できないことが確定した賃金計算期間の支払日に、代替休暇とする予定だった部分の割増賃金を支払わなければなりません。これが支払われない場合は賃金全額払の原則に反することとなります。

 

 

Q2.代替休暇の取得日に会社が時季変更権を行使することはできますか。

 

A2.代替休暇は年次有給休暇と異なるものであり、年次有給休暇のような時季変更権はありません。

取得日としていた日に業務の都合で出勤する必要が生じた場合の取扱いについても、労使で話し合いの上協定で定めておくことが望まれます。

 

 

Q3.労働者が代替休暇を取得する意向があるか確認するときには、取得日についても決める必要がありますか。

 

A3.意向の確認の際には、まずは取得の意向の有無のみを確認し、取得日は後日決定するという方法でもかまいません。意向の確認の方法については、労使でよく話し合っていただき、労使協定において円滑な確認方法を決めていただくこととなります。

 

 

Q4.労働者に代替休暇取得の意向がある場合とは具体的にどの程度の意向を確認する必要があるますか

「〇月〇日に取得する」「〇日頃取得する」「できれば取得したい」

 

A4.意向確認の程度は取得する意向があるか否か程度で良く、実際の取得日、取得の単位等は、後から労働者の意向を踏まえて決めることで差し支えないです。

 

 

Q5.代替休暇に充当できない残業の処理

代替休暇として与えることができる時間の時間数について、例えば1日の所定労働時間が8時間の会社において換算率25%の場合、1か月に85時間の残業を行った場合には、25×0.25=6.25時間となり、代替休暇を1日又は半日単位で取得しようとしても端数が生じます。このような場合に切り上げや切り下げの処理は可能でしょうか?

 

A5.切り捨て、切り上げは認められていません。1日分の代替休暇を取得するのであれば、不足する1.75時間についてその他の休暇を取得することで1日分とするか

換算した4時間分を半日分の代替休暇として取得し、残りの残業時間9時間分を割増賃金で支払い方法が考えられます。

 


 

今回は、2023年4月から中小企業に適用される

「月60時間を超える残業の割増賃金率50%」の内容について確認してみました。

 

特に恒常的に60時間を超える残業がある会社は、

大きな影響を受けます。

対応、対策にお困りであれば、お気軽にご相談ください。